世の中には「楽器の技術的には上手いけど分かりにくい演奏」もあれば、「楽器の技術的にはイマイチだけど分かりやすい演奏」もあります。

もちろん、楽器の技術が上手いほうが「正確で細かい演奏」ができるのは間違いありませんが、「分かりやすい演奏(=安心して聞いていられる演奏)」をするためにはまた別の工夫が必要なようです。

それでは、「音楽的に安心して聞いていられる分かりやすい演奏」をするためには、何を意識する必要があるのでしょうか?

明確なダイナミクス

一つ目にあげられるのは、明確なダイナミクスを付けられているか、ということです。

ダイナミクスは、楽曲の場面展開を分かりやすくするための重要な要素です(ホラー映画における音楽の使い方を思い出せば、ダイナミクスの重要さが分かると思います)。

特に、リズム隊のダイナミクスはバンド全体のダイナミクスをコントロールする「指揮」のような存在であり、リズム隊がダイナミクスを上下させることによって、「このあとトゥッティが始まるんだろうな」とか「ここはメロディをしっかり聞いてほしいんだろうな」と観客に予測させることができます。

ダイナミクスの設定を細かくしすぎると、かえって展開が分かりにくくなって逆効果になるため、なるべくシンプルで明確なダイナミクスを設定しましょう。

「主役」を意識した演奏

二つ目にあげられるのは、常にその瞬間瞬間の「主役」を意識した演奏ができているかどうか、ということです。

ビッグバンドの譜面は、編曲者以外の人が音源から採譜して作ったものが多く、アーティキュレーションやダイナミクスに関する指定がほとんどないような譜面があふれています。そのような譜面を演奏する際には、「今この瞬間誰が主役なのか」ということを意識しながら演奏することが非常に重要です。

ここでいう「主役」というのは、「今この瞬間において最も観客に聞いてほしい音」のことです。たとえば、メロディ(テーマ)を吹いている人はもちろんですが、メロディの隙間に「合いの手」のようなバッキングを入れている人も、その一瞬だけは主役になりますし、サックスソリであればリードアルト、トゥッティであればリードトランペットが主役になります。

主役を担当している人は、ほかの人よりも目立って聞こえなければなりません。ですので、譜面の指定よりも少し大きく演奏する必要があります。反対に、主役以外の人は、主役がしっかり聞こえるように少し小さめに演奏する必要があります。たとえば、メロディを演奏している人のmfは「fに近いmf」になりますし、ソロバッキングのmfは「mpに近いmf」になるということです。

メリハリのきいた演奏

三つ目にあげられるのは、「メリハリのきいた演奏」を意識できているかどうが、ということです。

ここでいう「メリハリ」とは、「必ず聞いてほしい音(フレーズ)」と「聴き流してほしい音(フレーズ)」をしっかりと意識分けして演奏できているかということで、ダイナミクスのことではありません。誤解を恐れずに言うとすれば、「(アーティキュレーション的に)必ずキメなければならない音」と「雑に演奏しても許される音」とを分けて演奏する、ということです。

もちろん、楽器の技術に長けている人であれば、難しいフレーズであっても、正確かつアーティキュレーションを効かせた演奏することができるでしょう。しかし、多くのアマチュア奏者の場合、正確性とアーティキュレーションはトレードオフの関係にあります。

特にライブ演奏の場合、細かいフレーズが完璧に演奏しきれているかどうかはあまり聞きとれないため、重要な音を強調した演奏のほうが観客にとっては分かりやすく、評価も高くなります。

ステージの演出

最後にあげるのは、曲の展開を分かりやすくするためのステージ演出ができているかどうか、ということです。

例えば、ソリストがソロを演奏し終わった後にお辞儀をするのは、「今ソロが終わったので、拍手をください」という観客への合図といえますが、こうした演出一つ一つが、観客が混乱することなく安心して音楽を聴けるようにするための配慮であり、「分かりやすい演奏」をするための大事な要素なのです。

ソリストのお辞儀以外にも、カウントの出し方(声の大きさは?)、キューの出し方(手の角度は?)、ソリストがソロマイクの前に立つタイミング(何秒前?)、ソロバトル中にそれぞれのソリストがどう振る舞うか(演奏していないときはどうやって待つ?)など、工夫するべき点は多数あります。

さらに言えば、ソリストへの拍手やアンコールなどのサクラを仕込むべきかどうか、演奏終了後のMCの入るタイミング(何秒後?)、終演後のBGMの流れるはじめるタイミング(何秒後?)など、演奏以外の点についても工夫をすることで、観客がより不安を感じずに気持ちよく演奏を聴くことができます。